連載 No.29 2016年05月08日掲載

 

感性を信じ突き進む姿に関心


主に北海道で撮影しているが、本州や東北にも好きな場所がある。

製鉄で栄えた釜石から、民話の里遠野に抜ける国道の崖のような急勾配を上り詰めると、仙人峠に差し掛かる。

長いトンネル遠野に向かって下り始めると、程なく砂防ダムと小さな湖が目に入る。



初めてここを訪れたのは、1980年代。釜石鉱山の施設を撮影し、最短距離で盛岡に抜けようと思ったのがきっかけだ。

雪の少ない太平洋側だが、この国道の登りはきつく、

四輪駆動ではなかった当時の車は、スパイクタイヤを履いていても一度止まると上れない。

滑り止めの砂をまきながら、ようやくトンネルまでたどり着くと、力尽きて入り口の駐車場でそのまま夜を明かすことになった。

翌朝この湖と出合ったが、夜のうちに通過していたら、気づくのはずっと後になったことだろう。



現在はバイパスが開通し交通量は減ったが、

逆にこの湖は地元で人気の撮影スポットとなり、カメラを持った人を見かけるようになった。

立ち枯れの木に着いた氷が美しく、谷あいの日差しとあいまって、とても神秘的な輝きを放つ。

この写真を撮影したのは20年以上たった2011年。厳冬の一月、震災の少し前のことだ。



その年は国内で数年ぶりの個展を予定していたので、この作品はすぐに仕上げられた。

展覧会の案内状にも使用し、会期中は、会期中は高地新聞の取材もあった。

この連載のきっかけになった作品だ。



自分でも気に入っている作品だが、さらにうれしいエピソードがある。

2年ほど前、ウェブサイトやフェイスブックのメッセージで、アメリカ人の写真家からこの写真が欲しいと連絡があった。

海外からの問い合わせは詐欺や冷やかしが多いので、適当にあしらっていたのだが、

共通の知人を通して知らせてきたり、日本人の友人に頼んで日本語でメールをくれたり、とにかく何度も連絡がある。

それならばと思い、450ドルのプライスと詳細を知らせた。

すぐに入金があり、その後は友人としてさまざまな情報を交換するようになった。



私の作品を欲しいと思ってからの彼の行動力に感心する。

ウェブで私の作品を見つけたとき、彼に日本人の知り合いはいなかったらしい。

そこで彼の出入りする国際空港のレストランで、日本の国籍マークをつけている人に声をかけて事情を話し、

その人が私に日本語で連絡し、彼が真剣に興味を持っていることを伝えてくれたのである。



そして先月、彼は他の写真家とともに、初めて来日した。

ギャラリーでちょっとしたセッションを開いたが、私が来場者のために持参した同じ作品を見せると、

「俺が持っているプリントのほうがいいな。」と話すところなど、

アメリカ人のユニークなところだと感じる。

自分の感性に自信を持って、どこまでも突き進む。横並びの日本人とはちょっと違う。